smさんと小説

 以前から志摩さんは学生時代、ブレザーなのか学ランなのか問題、通学は電車だったのか自転車だったのか徒歩だったのか問題、文系なのか理系なのか問題を勝手に持ち出し、日がな一日そのことばかりを考えるという不毛とも呼べる時間の使い方をしていたことがある。

 3話でピタゴラスイッチのことをさらりと「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン 」と言ってのけるあたり、めちゃくちゃ物理できる人じゃん……じゃあ理系かもな……とは思っていたが、そもそも物理が理系かも分かっていないド文系。さすがに文系ではないから理系かという雑なカテゴライズ。関係ないけど、あの一瞬で装置を作る志摩さんかっこいい。そしてご機嫌。

 

 語彙力が豊富だからか、演じている星野さんが実際に書籍を出しているからか分からないが、何となく志摩さんからは文系のイメージを感じ取ることが多い。そうであって欲しいという自分の理想もあるのかもしれない。

 ツイッターのアンケートでは四人の文豪を選択肢に入れたが、文学に弱いのであまり傾向としては参考にならないような気もしている。

 

 話は逸れるが、わたしは高校生の頃あまり文学を読んでいなかったし、今でも純文学とその他の小説の違いが分からないでいる。ざっくりと、教科書に載っている小説、青空文庫にある小説が純文学で、東野圭吾宮部みゆきは最近の作家、という詳しい方から見たらドン引かれるレベルなのかもしれないし、そのレベルの違いも分からないぐらいである。すみません。

 とあるきかっけで、大学四年生の時に森鴎外の「高瀬舟」を熟読することになった。それこそ何百回も読み返し、言葉の意味や時代背景まで調べ上げたので冒頭に関しては今でも空で言えるぐらいである。文章には無駄がなく緻密であり、淡々としているのに、しているからこそ表現の現実さに引き込まれた。

 その後、太宰治に一時期ドはまりして青空文庫で多くの作品を読み漁った。森鴎外の地に足がついた言葉選びとはまた違う、どの表現が正しいのかは分からないが、衝動さや儚さだったり刹那的な何かを強く感じていたことをは今でもよく覚えている。久しぶりに読みたくなってきた。

 高校の国語の先生が「たくさん純文学を読んで欲しい」とよく言っていた。言われた当時はあまり深く受け止めなかったが、二十歳を超えてから作品に触れた時、確かになと思った。

 十代の時にこの感性に触れているのといないのとでは違う。何が違うのか具体的には言えないが、何か分からないまま違うということだけが分かる感覚があった。だがそれは二十代だから感じることかもしれないし、十代の時に理解が追い付くかどうかも分からない。いつどのタイミングで読んだとしても人それぞれ感じ方は異なるということも分かる。それでも、圧倒的な吸収力を持っていたあの頃、国語の先生の助言を受けて読んでいたらよかったなと思わずにはいられない。

 だからこそ、高校生で純文学に触れる人たちがわたしには眩しく映る。電車通勤をしていた時、大きなエナメルバッグを足元に置いた学生が、首がもげるんじゃないかってぐらい食い入るように読んでいたのが太宰治の「人間失格」だった。柔道部かアメフト部か、とにかくガタイの良い学生が大きな手で丁寧な手つきで取り出して読んでいたのが夏目漱石の「こころ」だった。

 

 志摩さんから大幅に話がずれてしまった。

 志摩さんは隙間時間さえあれば文庫本を持っていただろうなとか、文庫本も購入するより図書館で借りていただろうなとか考えてしまう。片手持ちも捨てがたいが、やはり丁寧さを重視して両手で持って読んでいると思う。

 通学形態が分からないが、ぜひとも電車通学でドアと座席の角の位置を確保して背中を預けながら朝の読書の時間を待ち望んでいたと分かる表情で本を取り出して欲しい。ページを捲る指先は次を読みたいと逸る気持ちと、読んでいるその一文や言葉の余韻に浸りたいという気持ちの狭間で少し躊躇っていたりして欲しい。

 休み時間、同級生とお弁当を食べながら談笑する志摩さんも好きだが、勢いよくかきこんで「悪い、今日は」って図書館に行く曜日が決まっているのもいい。友人も「あ、そういや水曜日か」と志摩さんのルーティンが曜日感覚になってて欲しい。それでもって図書委員にもなってて欲しいし、その頃に視力の低下を実感して眼鏡をかけて欲しいし、ずらりと並ぶ本棚をじっくり眺めながら次読む小説を吟味する志摩さん(17)が欲しい。

 

 あ、待ってやばい、一年後輩の読書好きな彼女が「いつも水曜日にいる先輩」って気になり始めて絶対好きになるパターンでは……?隣の席とか空いてても、一席空けて座って盗み見るように横顔とか眺めて、今日は声かけるって意気込んでも結局できなくて予鈴が鳴って今日もダメだって彼女は思ってるけど、実は志摩さんは何年何組の誰かまで分かって彼女の目につく席に座ってるやつだ……?え、志摩さんって天沢聖司要素あるね……?

 

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 前述の通りわたしは文学には弱く、詳しい方が考える「志摩さんの好きな文学」を教えて欲しいとばかり思う。

 図書室でいつも隣に座る彼女の表紙を確認して、ふとした瞬間に「突然ごめんなんだけど、読んだことなければ、これおすすめ」って教えてくれる志摩一未先輩と恋に落ちる高校生。ブレザーなのか学ランなのかだけ教えてくれ。